茶道 客の作法 〜もの喜びができる人〜

茶道では、亭主だけでなく客にも(一応)決まった所作があります。

たとえば、表千家の場合、お茶を頂くときは、自分と隣の客の間に茶碗を置き「お先に」と声をかけ、膝前に茶碗を置き直したら、今度は亭主に向かって「頂戴いたします。」と一礼します。

飲むときは、茶碗を時計回りに二度回し、正面を避けて飲みます。
正面を避けるのは、亭主や茶道具への敬意と感謝の現れです。

お茶は、最後、音を立てて吸い切ります。
こうして、最後まで美味しくいただいたという感謝の気持ちを亭主に伝えているのです。

飲みきったあとは、茶碗を正面に戻し、茶碗を拝見します。茶道でいう「拝見」は「鑑賞」の意味です。

茶道と言えば「おもてなし」と言われますが、これは、亭主が客をもてなせばそれで良いというものではありません。
客は、カスタマーではなくゲスト。

亭主のもてなしに客が応え、主客一体となって一期一会の空間を作り上げるところに、面白さと難しさがあります。

もの喜びできる人」という言葉をご存知でしょうか?
私は、先日読んだ本「一汁一菜という提案(土井善晴著)」の中で初めてこの言葉を知りました。

たとえば、料理人は、お客に喜んでもらうために、日々様々な工夫を凝らしています。
それは、メニューをガラッと変えてしまう様なわかりやすい変化では必ずしもありません。
食べ物の歯ごたえを変えるために切り方を変える、季節を先取りした初物を献立に忍ばせるなど、小さな工夫、変化であったりします。

しかし、そういった小さなことでも、自分で気づいて素直に喜べる人、のことを「もの喜びできる人」と言うらしいです。

「もの喜びする」とは、人の愛情や親切に気づいて感動することなんですね。

料理人も、そういった客の反応は嬉しいに違いないですし、もの喜びできる人のことを尊敬します。
「わかってくれる人」だからです。

茶道における亭主と客の関係もこれと似ていると思います。

ところで、紹介した土井善晴さんの本は、タイトルのとおり「日常の食事は一汁一菜のシンプルでいい」ということを教えてくれてるものではありますが、この本が教えてくれることはそれだけではありません。

この本は、食文化の歴史を紐解くことで分かる日本人の持つ知恵、日々の食事が人間の情緒の育成に大きく関わること、美味しい料理ができるのは技術ではないこと、人間は大自然との関わり方によって「きれいに生きる」ことができること、など、日々の暮らしがいかに大切かを教えてくれる、易しく書かれた哲学書のようでもあります。

おすすめです。

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