茶道の作法:躙る

躙る(にじる)。

日常ではあまり使わない言葉ですね。踏み躙る、とは言いますけど。。

躙るとは、両手をついて、正座をしたような形で膝をくって少しずつ動く動作のことを言います。

茶道は、たとえば、客は茶室に入る前、膝前に扇子を置き、一礼したら、扇子を右手で持って、「躙って」茶室に入ります。

立って普通に入ればいいやん、と思われるかも知れませんが?!、茶道ではこうした動作が作法になっています。
亭主がお点前の最中に、体の向きを変えるときも、躙るようにして膝を動かし、向きを変えます。

「躙り口」という茶室の入り口をご覧になったことがあるでしょうか。
写真のような、頭を下げて小さくならないと絶対入れないような入り口で、草庵タイプの茶室に設えられた潜り(くぐり)のことを言います。

躙り口は、千利休が創案したと言われています。
現存する最も古い茶会記と言われる「松屋会記」にその記載があります。

「船付に、くぐりにて出を侘て面白とて、易仕始るなり」

「易」というのは利休のことを指します。利休の道号が「宗易」というため、一字をとって「易」と書かれています。
大阪淀川の船着場で、船の出口(入口?)を潜るように船から降りた、それを利休が侘びて面白いと思って「躙り口」を作った、というような意味らしいです。

また、これほど小さな入り口にした理由の一説には、武士が躙り口から茶室に入るには、腰につけた刀がひっかかってしまうため、必ず刀を外さなければならなかったはずで、つまり、茶室の中ではみな平等だという利休の茶の湯に対する考え方を体現したものだとも言われています。

茶室の中では皆、年齢や性別、立場の上下関係なく、その限られた空間の中で一期一会の機会を楽しむものですから、確かに、そうなのでしょう。

頭を下げて、小さくなって、「躙って」茶室に入るという所作自体は、謙遜や敬意の気持ちの表れだと思います。

茶道では、茶席に入る前にはそうして気持ちをリセットし、素直な自分の心に向き合うということに重きを置いているということでもあります。

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