(写真:雅夢)
最近歴史づいておりますが、今回は、伊達政宗についてです。
伊達政宗(1567~1636年)といえば、独眼竜政宗とも言われる東北の戦国武将ですね。武術だけでなく、和歌や連歌、能などにも造形が深かったと言われる、文武両道の人です(当時の有名な武将は、おそらく皆んな文武両道だったと思いますが)。
この伊達政宗ですが、実は、千利休の最後の弟子、と言われています。
天正18年(1589年)、小田原の陣中に遅参した政宗は、秀吉に謝罪をし、秀吉の東北制圧は平和理に終わりました。これは、政宗に対して融和派だった家康・利家・利休などの政治工作が背後にあった結果だと考えられますが、加えて、政宗が「利休さまに茶を習いたい」と発言したことが、秀吉の信頼を得て赦免につながった、というエピソードも残っています。
ほんまかいな、と若干疑ってしまいそうにもなりますが(笑)、伊達家で編纂された仙台藩の歴史資料の一つである「貞山公治家記録」に、次のような記録が残っているのです。
関白殿ヨリ御使ヲ以テ御尋ノ有シ節、公(政宗)其事一々答ヘ仰セ玉ヒテ後、御使へ、今度利休御供シ罷リ下ルト聞コシ召サル、茶湯ノ事聞セラレタシ、各御取持ヲ以テ参会シ給フ様ニ願ワセラル由仰セラル、此事、関白殿ノ御耳ニ達シ、政宗田舎ニ住居シ奇特ノ事ナリ、殊ニ進退危キ時節箇様ノコ事ヲ申出ず、ソノ器量推察シ玉フ、カクノ如ノ者逆心ハ有間敷ト御前伺候ノ輩ニ仰セ聞ラルト云云
(貞山公治家記録) 小松茂美「利休の死」中央公論社
これは、小田原に来た政宗に、前田利家らが事情聴取していた時の話らしいのですが、以下現代語訳です。
「今度利休殿が秀吉様のお供をして小田原に下られたと聞きました。茶の湯のことを利休殿から聞かせていただきたい。皆様どうか秀吉様にお伝えいただき、利休殿に会えるようにお願いします。」と政宗が述べ、それが「関白秀吉の耳に届き」秀吉が「このような者に反逆の心はあるまい」と言った、
・・ということなのです。
こんな記録史料が残っているって・・・面白すぎます。。。
「利休に茶の湯の事を聞きたい」と言った政宗の発言が、秀吉にとって「政宗は信頼できるやつじゃ」と判断したキメぜりふになったとすれば(?)、秀吉の利休に対する信頼の厚さも想像できます。
そして、実際この後すぐに、政宗は、利休の弟子となるべく束脩(そくしゅう。入門時に先生にする贈り物)を利休に届けたことが、残された利休の書簡から窺い知ることができます。
これは、利休から政宗の家臣にお礼を述べる手紙です(昔は、相手直接ではなく、家臣宛に書くのが普通だったようです)。現代語訳にて記載します。
政宗様からただいま束脩をお届けいただいたことを聞きまして、大変忝く思います。太刀一振り、馬代十両を賜り、嬉しく思います。大変過分のことです。ただし、本来お礼に伺わねばなりませんが、ただいま養生をしており、たとえ関白様の御成でも出てきてはいけないと命じられておりますので、恐れながらお礼には参上できません。その旨、貴方様から政宗様にお伝えくだされば有り難く存じます。私の勝手ではございますが、ご迷惑をおかけします。
「利休の生涯と伊達政宗」生形貴重著 河原書店
・・・・というものです。
この文面からわかるとおり、小田原にいた利休は、この時、病気で療養中でした。「秀吉様が御成の際にも出てきてはいけないと言われている」と書いています。
そして、上記文面から、(かなり引っ張りましたが)政宗が利休に束脩(入門料)として贈ったもの・・・お分かりいただけたのではないでしょうか??
「太刀一振り」と「馬代十両」です^ ^
この手紙の日付は天正18年6月10日なので、この頃政宗は利休の弟子になったと思われます。
しかし、政宗が上洛したのは翌年19年1月で、利休は翌月28日に自刃により死を遂げているので、実際的な利休と政宗の交流は、ほんの数週間という短い期間だったと考えられています。
もっとも、ごくわずかな期間の師弟関係とはいえ、戦国時代という今とはまったく異なる世の中、そして茶の湯が戦国武将たちの間で政治的・精神的に重要な役割を担っていたと思われる時代です。きっと、利休と政宗の師弟関係は濃密なものだったに違いないと想像します。
政宗が、上洛後に、「妙覚寺を宿とし、大名などの来客に対してお茶を振る舞い、秀吉から数寄道具を賜った」という史料も残っていますが(貞山公文書)、この茶会はきっと、利休が後見になっていたと考えられます。
利休は、自身がまもなく政治的な犠牲となってこの世を去ることも覚悟していたと思います。そんな状況において、政宗にどのような思いで茶の湯を伝えようとしていたでしょうか・・・・。
参考文献等:
「利休の生涯と伊達政宗 茶の湯は文化の下剋上」生形貴重著 河原書店
「伊達政宗 利休最後の弟子」表千家北山会館茶道文化講座2023年5月28日 講師:生形貴重